2月19日(土)

2泊3日の予定でスキー教室に参加していた下の娘、新潟県の六日町に滞在

中、電話をしてもメールをしてもなんの返事もなく、いきなり玄関のチャイムを鳴

らしてご帰宅。それもスキ-教室へ行ってきたとは思えない身軽さで帰ってきま

した。「荷物は?」「送った、明日届く。」よっぽどお疲れらしくぶっきらぼうな返事

です。でもすぐに明るい声で「ママ!私スノボーできるようになったよ。すごいで

しょ。自分でもびっくり。」 それから 「もう半端ない筋肉痛。おなか減ったぁ、

ご飯なぁに?」 「ホテルのご飯どうだったの?」「美味しいわけないじゃん。

バイキング、三食とも。バイキングっていっても帝国ホテルとは月とすっぽん。

ご飯に満足できないからついついみんなで部屋でお菓子食べちゃって太ったか

なぁ・・・。」と体重計にまっしぐら。

 そんな娘の話を聞きながら私は大急ぎでガスに火をつけ、お皿を出し、娘の好

きなお魚料理や野菜サラダなどをテーブルに並べました。「魚定のお魚だから

おいしいはずよ、野菜もいっぱいたべなさいね。」 お魚が大好き、特にお刺身

は大好物、ブロッコリーやカリフラワー、キュウリ、トマトと野菜サラダの中身にも

うるさい娘がバイキングのフライやカツなどでずっと過ごしてきたのではかわい

そう、今夜は娘の大好きなお魚メインのお鍋の予定。

 お鍋の中身に文句はいわないものの、入るべきものが入っていないと、

アレ?と指摘されてしまいます。この間もちゃぁんと切って笊に準備しておきな

がらネギを入れ忘れて「なんでネギ入ってないわけ?お鍋にはネギと白菜

は常識でしょ。」とやられました。今夜は特に手ぬかりのないように用意しな

くては・・・。ネギは丈が長く新鮮なものほどにおいも強烈、白菜は重たいし

八百屋さんで買って持ち帰る時に一苦労します。主婦の買い物袋からネギがス

クッ顔を出しているととても庶民的な感じがしていいな、と思います。でもカシミ

アのコートなんか着ている時にネギの顔を出した袋はちょっと似合いませんけれ

ど。

 芥川龍之介の短編『葱』にはその庶民性が心悲しいくらいに表現されてい

ます。カフェの女給のお君さんはハンサムな若いお客の田中君とデートすること

になりました。二人手を取り合いながら、まるで『不如帰』の主人公のような

心持。”すべてのものがお君さんの眼には、壮大な恋愛の歓喜をうたいながら、

世界のはてまでもきらびやかに続いている。・・・・・幸福、幸福、幸福・・・・”

二人が一軒の小さな八百屋の前を通った時、お君さんの視線は葱の山の中に

立っている「一束四銭」の札をとらえました。この物価高に一束四銭。”今まで

恋愛と芸術に酔っていた、お君さんの幸福な心の中に、其処に潜んでいた

実生活が突如としてその惰眠から覚めた――” お君さんは思わずネギを

買ってしまうのです。その姿を夢から覚めたような気分で眺める田中君に”実生

活の如く辛辣に眼に滲む如き葱の匂い”が鼻を打つのですが、主婦の私

にはお君さんの気持ち、行動がよーくわかってしまうのです。

娘からはきっと「お君さん、ありえなーい。田中君の気持ち、マジわかる」なんて

いう反応が返ってくるのでしょう。でもね、君たちにも主婦感覚が備わってきてこ

の気持ちよーく分かる時が来ると思うよ、娘さんたち。

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