
本のしょうかい

『きんぎょのおつかい』
与謝野晶子 文 高部晴市 絵
架空社
ある日、太郎さん、次郎さん、千代ちゃんの兄弟、妹の飼っている金魚三匹が太郎さんのご用で、電車に乗っておつかいに出かけるお話です。
はてさて、どうして太郎さんが自分で行かないのかしら、金魚におつかいができるのかしら、それも電車に乗って・・・。まず読み手は不思議な気持ちになり心配になります。金魚たちだって心配そうです、電車は怖いものらしい・・・と。
三匹は歩いて新宿駅に着きました。そして切符を買おうとするのですが、金魚には手がないので切符は出せないねと駅夫さんに言われました。
これではお役目を果たせない、と不安になる三匹。読み手も不安になります、これではお話が進まないと。でも大丈夫、金魚たちは無事電車に乗せてもらえました。
ところがそれからまたまた心配事が起こります。金魚は水がなければ死んでしまうのです。電車に水を入れるわけにはいきません。ほかのお客さんが水浸しになってしまいます。すると駅夫さんは金だらいに水をたくさん入れて持ってきてくれました。なんと親切な駅夫さんでしょう。
三匹はたらいに入って電車に乗り、トンネルを抜け、窓から見える景色を堪能し、駿河台につきました。そして菊雄さんのおうちを訪ね、太郎さんのご用をちゃんと果たしたのでした。
道中ずっとおうちのねこがそっと自分たちを見守っていたのを金魚たちは気づいていたのでしょうか。このねこは太郎さんたちに頼まれてついていったのでしょうか・・・。
最後の場面では兄弟妹がそろってそれぞれバケツを持ち、自分の金魚がかえって来るのを待っています。3人がプラットホームで待つその様子もほほえましく、お話は和やかに終わります。
これは与謝野晶子の作品と知ってちょっと驚きますが、与謝野晶子は自分の子どもたちのためにおとぎ話を作って読み聞かせたそうです。晶子さんは、最初のうちは買った本を読んで聞かせていたけれど、内容が仇討とか、泥棒とか、金銭に関してのものが目立ち、また言葉づかいも野卑だったり、と子どもたちをのんびり清く素直に育てたい自分の心持にあわないものが多いため、自分で作って聞かせることにした、という記述を残しています。(1910(明治43)『おとぎまばし 少年少女』はしがき より)
どこかのんびりした、ノスタルジックでレトロな雰囲気あふれるお話が高部晴市さんの絵によって一層引き立ちステキな作品となっています。