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本のしょうかい

あひるの表紙画像

『あひる』
石川えりこ 作

くもん出版

わたしの小学生のころのはなしです。いちじくの木の横にお父さんが鶏小屋を建てました。そこへ生みたての卵を取りに行くのがわたしの仕事でした。

ある日、学校から帰るとその鶏小屋に新しい仲間、あひるが一羽加わっていました。あひるをこんなに近くで見るのは初めて、とわたしも弟もあひるのことが気になって仕方ありません。あひるはちょっと弱々しい感じです。前の川で泳がせてみれば元気になるかな、と、弟と二人一生懸命あひるの世話をしました。

次の日もあひるを川へ連れて行こうと二人は学校から一目散で帰ってきました。ところがあひるの姿がありません。「あひるはね しんでしまったとよ」夕飯の支度をしながらお母さんが言いました。

今日のおかずはお肉が入った野菜の煮物です。おしょうゆとおさとうで味付られたお母さんのおいしい煮物。お肉がいつもよりかたい気がしたわたしの心にあひるの姿が浮かんできた時、弟がお母さんに投げかけたことば・・・。

お肉や魚、野菜、ふだん当たり前のように食べているわたしたちですが、よく考えてみるといろいろなものの命をいただいている、ということに気づきます。わたしの家にどうしてあひるがやってきたのか、わたしは知りました。大人はもちろんはじめから知っていました。生きていくことと食べることの意味、つながりを石川えりこさんが独特の絵と文で静かに深く伝えています。

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