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本のしょうかい

やこうれっしゃの表紙画像

『やこうれっしゃ』
西村繁男 作

福音館書店

ここは上野駅、夜の九時をまわったところです。大きな荷物を持ってたくさんの人たちが改札口に向かっています。

故郷へ帰る人、団体旅行の一行、結婚式のために上京してきた親戚一同、スキーをかかえた親子連れや若者たち、お土産を買う人、時刻表を確かめる人、見送りの人、中央改札前の構内は賑やか、賑やか。

改札口の小さなボックスにはそれぞれ駅員さんがいて、切符にはさみを入れています。駅員さんの頭の上にはこれから発車する便の案内札がずらりとつる下げられています。

さぁ、金沢行き夜行列車の出発です。列車は何両編成なのでしょう?後ろから荷物車、B寝台、トイレ洗面、それから普通の4人がけボックス席が並ぶ車両、A寝台、ゆったりリクライニングシートの車両もあります。

トランプをしたり、お菓子を食べたり、これから登る山の地図を広げて計画を立ている人がいたり、故郷で待つ坊やへのお土産を見せながら話をするお父さんたちがいたり、寝る前の一杯を楽しむ人がいたり、とまだまだ宵の口、ボックス席車両からはいろいろな話し声が聞こえてきそうです。それからみんな思い思いの格好で眠りにつきました。夜汽車に揺られながらどんな夢をみているのでしょう。

乗客一人ひとりの思いを乗せて、金沢目指して、ガタコン、ガタコン、夜行列車は走ります。外はいつの間にか雪景色になり、そして朝を迎え、金沢到着。駅の時計は七時五分前を指しています。

朝の駅の改札、旅の疲れも見せずみんな晴れやかな表情です。みなさんお疲れさま。

これは1980年の月刊「こどものとも」の中の一冊です。1980年はそれほど昔ではないはずなのに、この絵本の一つひとつの描写がとても懐かしく感じられます。車中でタバコやキセルをふかすおじさんがいたり、ねんねこ姿のお母さんがいたり、荷物は大きな風呂敷包みだったり。電光掲示板や自動販売機も見られない、携帯電話やゲーム機もなかった頃はこんな風でした。懐かしさを味わいながら、絵だけで進む夜行列車の出発から到着まで。乗客一人ひとりのものがたりを読み手が自由に想像していくことが楽しい西村繁男さんの代表作のひとつです。

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