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いつもだれかがの表紙画像

『いつも だれかが・・・』
ユッタ・バウアー 作・絵  上田真而子 訳      

徳間書店

お見舞いに訪れた少年に「ぼうや,わしは何をしてもうまくいったんだぞ・・・」とおじいさんは自分の人生を振り返って話し始めます。悲しかったり、怖かったり、危なかったり、いたずらもした少年時代。そして大人になって戦争を経験し、人生楽しいことばかりではない、と気づき始めます。いろいろな仕事について働いて、恋をして、パパになって、おうちを建てて、やがてぼうやのおじいちゃんになったおじいさん。

何をしてもうまくいったのは、いつも天使が守ってくれていたから。うれしいときも かなしいときも いつも だれかがそばにいてくれた。 あぶないときは たすけてくれた・・こんなおじいさんの思いを作者のバウアーさんはおじいさんの言葉ではなく、おじいさんのかたわらでいつも見守る天使の絵を通して伝えます。

しかし天使でもどうにもできないこともありました。ユダヤ人の友だちヨーゼフは黄色い星の印を胸につけ、やがてナチスに連れ去られてしまうという現実もバウアーさんは伝えています。ドイツ人のバウアーさんだからこその表現かもしれません。

いろいろなことを思い出しながら、最後に「わしは とても しあわせだった。」と話し疲れたおじいさんの目をそっと閉じさせてあげているのも天使です。部屋を出てホスピスを後にする少年のうしろをついてきた天使さん、今度はこの少年を見守っていくのでしょうか。

ユッタ・バウアーさんは2010年国際アンデルセン賞を受賞しています。選考委員会はバウアーさんを、「力強い語り手であり、哲学的なアプローチ、独創性と創造性に加え、若い読者とのコミュニケーション能力が卓越している」、またその作品には「児童文学の真の目的ともいえる、信頼、愛、安全といった希望の光と、現実の不条理さが同居する。個性的な登場人物は、人が本当はいかに我慢強く、心の優しい存在であるかを伝えている」と高く評価しています。

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